jyanjayakaの日記

はやめのリリース、しょっちゅうリリース

ガロア理論3

3次方程式の解の公式を求める

3次方程式

 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0 = 0

の解の公式を求めてみよう。

3次方程式でも当然xの分離の問題を解決する必要がある。そこで、2次方程式で上手く行った方法を3次方程式でも使えないか考えてみる。2次の場合は平方完成を用いた。3次の場合では立方完成とでも呼ぶべきだろうか。

適当な変数変換

 x = Ay + B

を行うことによって、2次と1次の項を同時に消滅させることが出来れば良い。もちろんもっと一般的な変数変換を行うことも可能だが、とりあえずまずは平方完成の場合に沿った形での1次変数変換を考えている。

しかしよく考えると一般性を失わずにA=1と仮定して良い。*1

 このような変数変換を与えるBが存在しないことは、計算によって直接確かめることが出来る。計算は何のテクニックも必要ない初等的なものなので省略するが、結局変数変換

 x = y +B

を施すと、yの2乗と1乗の係数はそれぞれ

 a_2 + 3B

 3B^2 + 2a_2 B + a_1

となる。

この両式を満たすBは一般に存在しない。

これは考えてみれば計算するまでもなく分かることで、我々は一つの変数Bを使って、2つの変数 a_2, a_1を消去しようとしているのだから、上手くいくはずがない。上手くいくのは a_2, a_1の間に特別な関係のある場合だけだが、それは一般的ではない。したがって立方完成は一般には不可能である。

しかし今の考察から分かるように、一つの変数Bを用いれば、一つの変数を消すことが出来ることは期待できる。そこで a_2, a_1のどちらを消去するか選ぶわけだが、 a_1は常に消去できるわけではない事がわかる。というのは 3B^2 + 2a_2 B + a_1=0はBについて2次式であるから、場合によってはBが実数でなくなる可能性があるのだ。我々は今のところ、実係数の方程式を考えているからこれはよろしくない。変換後も方程式は実係数であることが望ましい。そこで消去するのは a_2ということになる。 a_2 + 3B=0はBについて1次であるから問題ない。これをBについて解くと

 \displaystyle{B = - \frac{a_2}{3}}

となる。

 結局、最初の3次方程式

 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0 = 0

は、変数変換

 \displaystyle{x = y - \frac{a_2}{3}}

を行うことで、2次の項が消去された

 y^3 + py + q = 0

という方程式に書き換えることが出来ると分かった。

 p, qはもちろん a_2, a_1のある組み合わせなのだが、それは特に重要ではない。我々は一般に

 y^3 + py + q = 0

という3次方程式が解けるかどうか考察するからである。

さて、それではこの3次方程式はどうやって解いたらよいだろうか。

 

テクニックについて

これからその方法を見てゆくわけだが、これは単にテクニックの問題である。つまり上手い式変形を重ねることで、既に解き方のわかっている方程式へ還元するという方法論だ。そのためには、もちろん第一にその「上手い式変形」を見つけなければいけないのであるが、それは当然難しい。(難しくなければ「上手い」などと言われない!)そこで、天才のひらめきや、長年の努力が必要になってくる。

そういうテクニックを鑑賞するのも楽しいのだが、我々の目標は方程式というものの本質的な理解を推し進めることにある。だから、どんなに派手なテクニックでも、それがある特定の場面でしか使えないのであれば、あまり価値があるとは言えない。「役に立つが3次の場合にしか使えない」といったもののことだ。それよりもどんな次数の方程式にでも適用できる、普遍的な考え方、フレームワーク=理論の方が好ましい。

しかし、理論は帰納によって生まれるのであるから、個々のテクニックを蔑ろにする訳にはいかない。3次のテクニック、4次のテクニックを見て、それらがなぜ上手く行くのか、その背後にあるより普遍的な構造は何なのかを考察することで、理論が深まってゆく。*2なのでそもそも3次、4次のテクニックが見つかっていなければ、普遍的な理論など出来ないのだ。

理論が出来る前、そこは天才のひらめきが支配する混沌とした世界である。だが、一度理論が完成し、概念が整理され、視界がひらけてしまうと、かつてのテクニックはただのアルゴリズムとなり、ひらめきはシステムの影に消えてしまう。しかしそれでも先人達が未開の世界へ飛び込み、道を作らなければ理論は出来ないのである。

 

簡約化された三次方程式 y^3 + py + q = 0の解法

それではテクニックを鑑賞しよう。

まず

 y = u + v

とおく。これを方程式に代入して整理すると

 \left( u^{3}+v^{3}+q\right) +\left( 3uv+p\right) \left( u+v\right) =0

となる。これをu,vについての方程式と見て、u,vを求めることができれば、u+vで元の方程式の解も求まる。解が一つ見つかれば方程式を因数分解出来るから、後は2次方程式を解くだけである。つまり最初の解を見つけるのが問題なのだ。

方程式が一つで変数が二つあるから、この方程式を満たすu,vの組みは一般には無数にあると考えられる。そこで、それらの組みの中から、特に分かりやすい解、つまり

 u^{3}+v^{3}+q=0

 3uv+p=0

を満たすものを選ぶ。下の式を3乗してやれば、 u^3, v^3

 \displaystyle{t^{2}+qt-\dfrac {p^{3}}{27}=0}

という2次方程式の解だと分かる。(解と係数の関係。)

この2次方程式の解を t_1, t_2とする。ここから先へ進む前に、冪乗根について復習しよう。

 

(次回へ続く)

*1:仮にこの変数変換で、3次式が

 A^3 y^3 + C = 0

と書き換えられたとする。更に変数変換

 y = z/A

を行うことで

 z^3 +C = 0

となる。二度の変数変換は結局一つの変数変換

 x = z + B

にまとめることが出来る。よってAは最初から1としてよい。

*2:方程式論で言えば、それはラグランジュによって行われた。それ以前に知られていた方程式の解法を詳細に分析することで、その背後にある普遍性を見つけたのだ。